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そのような折、以前知り合った西海陶器の現会長からの誘いがあり、意を決して長崎県の波佐見町へ拠点を移すことに。当時は無名だった産地での活動に不安はありましたが、彼が目にしたのはあるべきものづくりの姿でした。

 

会話の中でアイデアが生まれ、意図を共有した職人の手で生産され、でき上がったものが身近で使われる場所。その背景には、400年以上も陶磁器とともに歩んできた歴史と豊かな生活文化がありました。

 

彼は水を得た魚のように制作に没頭します。産地の伝統技術に、彼が培ってきた経験・知識・感性が加わることで、伝統と現代性が融合したプロダクトが次々と生まれ、広がり、産地に新たな価値観をもたらしていきます。

 

あの出会いから20年余り、今では彼の手がけたものが、国内にとどまらず世界各国でも使われるようになりました。それでもなお、世に、自身に、彼は問い続けています。"暮らしの中で、豊かさを感じられるもの"とはー。

 

 

阿部薫太郎 kuntaro abe

1975年岩手県花巻市生まれ。大学修了後の2000年、KONST FACK K&G(スウェーデン)に留学。タイの陶磁器メーカーでの任務を経て、2006年より長崎県波佐見町を拠点とする。以降、陶磁器デザイナー・エンジニアとして国内外の企業やデザイナーとプロダクトを発表。HASAMI PORCELAIN、Common、sabatoがグッドデザイン賞を受賞。その他の代表作に、Ha' porcelainなどがある。

デザインプロジェクト"essence of life"を手がける陶磁器デザイナー・阿部薫太郎。型にはまらない彼の足跡と思想は、奥行きのあるものづくりに色濃く映し出されています。

 

幼少期から祖父が収集していた工芸品に囲まれ、工作など手を動かす遊びを好んだ彼にとって、ものづくりへの進路は必然でした。

 

大学では工芸を専攻。当初の彼は"自由度"の高い造形物の創作に邁進していました。しかし、ある醤油さしとの出会いが彼の価値観を一変させます。実用という"制限"が課された造形が持つ力強さに惹かれるのと同時に、自身の潜在的な願望に気づかされたのです。

 

"1つの傑作より、100人の暮らしを豊かにする100のものを作りたい"

この時、彼の中で道が開けました。延々と続く終わりのない道が。

 

大学修了後、彼はスウェーデンへ留学。多くの世界的プロダクトを輩出するデザイン大国で、暮らしに根ざしたデザインの思想と現場に触れることが目的でしたが、この頃はすでに善き時代が過ぎ去った後。陶磁器を生産する拠点の大半が東南アジアなどへ移転し、思想だけが残された空洞状態でした。

 

帰国後少し間を置き、知人の紹介で先端の陶磁器生産を学ぶためにタイのメーカーへ。しかし、タイには技術や豊富な原料があっても、現地の暮らしでは陶磁器が使われておらず、メラミン食器が主流でした。

 

次々と目の当たりにした商業偏重のものづくりの現状に彼は落胆し、疑問を感じるようになっていきます。

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